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現地暮らしの手引き


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インド国異様奇談ー目次


1、Y君の話

2、壁

3、マンゴーの木

4、銀貨は語る

5、失踪



関連情報

・インドビザ解説

・最新鉄道時刻表

3、 マンゴーの木

インドで不動産を購入するのは難しい。なぜならばこの国では、売りに出されている不動産の10件中、少なくとも9件は間違いなく問題物件だからだ。他人名義、担保物件、公共料金(水道、電気代)が何十年も支払われていない物件、無登記の不動産、仲介人による異常なほどのぼったくり・・・例を挙げるときりが無いが、こういった不動産が良質物件として普通に取引の場に持ち出されている。30年くらい前までは土地家屋などは無料譲渡されていたこともあったらしいが、これだけ人口が多くなった今では、この国の不動産事情はまったく変わってしまったようだ。実際、猫の額ほどのわずかな土地のために、本来愛しあうべき兄弟間で骨肉を分ける争いが起こるのも一般的なことである。

結婚して1年間、僕達夫婦の最大の悩みはマイホームを持っていないことであった。物価の上昇と地価高騰を目の当たりにして、僕達は、必死になって不動産を探し回った。そのために何人もの不動産仲介人にも会った。親戚達にも頭を下げた。しかし、僕達が苦労に苦労を積み重ねたあげく見せられたのは、どうしようもないような問題物件ばかりであった。

今回は、その土地探しの最中に起きたある薄気味悪い出来事について話してみることにしよう。


妻の遠縁のグッドゥーおじさんから電話がかかってきたのは、おととしの8月某日の夕方であった。時計の針は既に午後5時を回っていた。電話に出たのは、当時、僕達のもとで居候していた義弟シャムスである。電話を切ったシャムスが僕達夫婦の方を振り向いて、ちょっと困ったような顔でこう言った。

「おじさんがまた土地を見せると言ってるけどどうしようか?おじさんの友達の土地だってよ」

正直言って、僕達3人は乗り気ではなかった。なぜならば、今までグッドゥーおじさんの紹介で見た不動産は問題物件ばかりだったからである。それらには国有地に違法建築した家屋などというとんでもない物件もあった。不動産業者どころか、仲介手数料目当ての親戚達からもそのような物件ばかりを見せられ続けて、最近では、僕達夫婦はマイホームの夢をほぼあきらめかけていたところである。僕は、妊娠3ヶ月の妻の方を向いてどうしようかと目で問いかけた。一瞬考えるような表情を見せた妻であったが、きっぱりとした口調で、

「ここでじっとしていてもしょうがないじゃない。これが最後だと思って、もう一度だけおじさんの紹介する物件を見てみましょうよ。」

と言った。その言葉に促されるように、僕達3人はすぐに身支度を整えて、借り切ったオートリクシャーで指定された場所まで向かうこととなった。

我々が訪れたのは、市街地から2,3キロほど離れた所にある閑静な住宅街であった。あたりはすでに闇に包まれていた。オートリクシャーは、薄暗い街灯とヘッドライトの光を頼りに、両側を屋敷に挟まれた細い路地をゆっくりと進んだ。ここでは大小様々な家屋に混じって建設中の家も多くみられた。しばらく先に進むと、突然、右手の家々の並びが途切れて、広い沼のようなものが現れた。雨季の雨水が更地に溜まって沼地化したもののようである。そこから10メートルほど行った先に崩れかけた壁のようなものが見えた。それを見た義弟が、運転手に車を止めるように言った。どうやらあそこが僕達の目的地らしい。僕達は、車を降りてその壁の方に向かってゆっくりと歩き出した。
それは奥行きの深い地所であった。路地に面した壁がほとんど崩れ落ちているために、敷地内の様子がこちらからでもはっきりと見て取れた。何年もほったらかしにされていたためか敷地全体にびっしりと雑草が生い茂っている。地所は完全な更地ではなくて、中にレンガ造りの小さい家屋が建っている。いや、家屋と言うよりは、その打ちひしがれた状態からして廃屋という言い方が正しいであろう。そして、その廃屋の前の庭にあたるところに一本の小さなマンゴーの木がぽつんと立っていた。一見して、どこにでもある普通の廃墟という感じである。マンゴーの木と廃屋を見た義弟が、

「たぶんここだと思うけどな。」

と言った。どうやらそれらがおじさんの教えた目印のようだ。
しばらくすると、我々の来た方角から、誰かが自転車をゆっくりとこぎながら、こちらにやってくるのが見えた。街灯に照らされて次第に姿がはっきりと見えてきた。グッドゥーおじさんだ。おじさんは少し貧相な顔をした中年の男である。我々を見ると、まるで内緒話でもするかのようにささやき声でこう尋ねた。

「もう中に入って見たのかい?」

シャムスがまだだと返事をすると、おじさんは、ついて来なさいと言いながら懐中電灯を手にして地所に足を踏み入れた。義弟が黙って彼の後をついて行く。僕達夫婦は前の路地で彼らが出てくるのを待つことにした。こんな時間に廃墟を散策するのは、決して気持ちの良いことではない。しばらくすると、懐中電灯に照らされた2人の影が廃屋の入り口にすっと吸い込まれていく様子が見えた。
それにしても、こんな夜に、このような町外れまで呼び出さなくてもよかったのではないか?しかも身重の妻は、ここに来る途中、揺れる車内で何度も眩暈と吐き気を感じているように見えた。これから暗い夜道をリクシャーに乗って自宅まで帰るのは大変であろう。そのようなことを考えながら、僕は、妻とともに敷地の外で2人が出てくるのをじっと待っていた。目の前には、マンゴーの木が静かに佇んでいた。それは3メートルくらいの低い木であったが、根元が地面に力強くはっており、葉で生い茂った枝々はリンゴカットのような形状を成していた。まるで御伽噺に出て来そうな木である。
しばらくすると、懐中電灯の弱い光とともに廃屋から2人のシルエットが出てくるのが見えた。内心ほっとする。ほんの数分間であったが、こんな暗い道で取り残されて少し気味が悪くなっていたところであった。横で黙って立っていた妻もほっと安堵の表情を見せた。僕達を見るとシャムスが残念そうな顔で、

「中は意外と広かったよ。義兄さんたちも見ればよかったのに・・・。」

と言った。おじさんも僕達夫婦に、

「この物件は掘り出し物だ。価格も安いし、書類にも何の問題も無い。早めに買いなさい。」

と、もう買うことが決まったかのごとき口調で喋り出した。

おじさんが帰った後、僕達3人は近くに止めてあったオートリクシャーの座席に腰掛けて、先程の地所について各々の意見を語り始めた。確かに値段は相場よりもはるかに安かった。土地も十分広い。廃屋さえ取り壊せば、立派な屋敷を建てることも出来る。考えて見ると、決して悪い条件ではなかった。まあ、敢えて難点を挙げるならば、市街地から少し離れているために人通りが寂しいということくらいであろうか。でも数年内には、きっとここも開発が進んでもっと賑やかな場所になるに違いない。そこまで話を進めていくと、僕達は、なんだか自分達のバラ色の明るい将来が約束されたような気がしてきた。バラナシの住宅街に建つ2階建ての庭付きの我が家。ここから毎日町まで仕事に行く自分。小学校までスクールバスで通うであろう僕達の子供達・・・。

しかし・・・である。そんなに良い物件が、こんな安い値段でなぜ売られているのであろうか?明るい調子で談笑まで始めた妻と義弟を傍目に、なぜかある種の疑念が頭をよぎった。ふと視線を上げると、5軒ほど向こうにある屋敷の前で近所のおばさん達がおしゃべりをしている様子が見えた。僕は、義弟に向かって、

「一応、あのおばさん達に、この地所のことを訊いてきてくれないかな?なにか問題があるかもしれないからね。」

と言った。早速、シャムスはおばさん達のもとへ行って話し始めた。暗くてはっきりと見えないが、なにやら深刻な顔で彼女達の話を聞いているようだ。5分ほどすると、「おばさん、ありがとう。」と元気な調子で礼を言いながら、義弟がこちらに駆け戻って来た。
しかし、リクシャーに戻った彼が開口一番、口にした言葉は、

「早くここから逃げよう。」

だった。唖然とした僕達をよそに、彼は真っ青な表情で畳みかけるように早口で説明し始めた。

「あのおばさん達によると、この地所を買う人間は次から次へと死んでいくらしいよ。10年以上前から購入者達がばたばた死んでいくので何度も転売されているんだって。中の廃墟は元々建設中の家だったらしい。持ち主が病死したために建設がストップしたって。今の持ち主は、この土地を買ってすぐに息子が交通事故で亡くなったので売りに出した・・・。」

背中に何かひやりとしたものが触れたような気がした。全身を悪寒が走り抜ける。そういえば、さっきからおかしいと思っていたが、夜風が吹いているというのに、あのマンゴーの生い茂った葉はそよともしていなかったではないか・・・。
突然、狭い車中に妻のヒステリックな叫び声が響いた。

「早くここから逃げて!!早く!もう土地なんかいらないわ!もう家なんて欲しくない!!」



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