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現地暮らしの手引き


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インド国異様奇談ー目次


1、Y君の話

2、壁

3、マンゴーの木

4、銀貨は語る

5、失踪



関連情報

・インドビザ解説

・最新鉄道時刻表

4、銀貨は語る

引越しをすることになった。

妻の実家の人々が、ハリヤナ州のグルガオンとノイダ(共にデリー近郊の町)に移住することになり、今回、我々も彼らに便乗して引越しをすることになった。ノイダとグルガオンでは、既に妻の兄弟達がカーペット関係の仕事に携わっているので、自分も何かそれに関連した職業を選ぼうかなと考えている。バラナシには4年以上住んだために愛着を感じるが、ここにいても単調な生活が続くだけなので新天地に行って新しい生活をはじめようと思う。

とりあえず引越し準備として、学生時代に使っていた大量の本を郵送でグルガオンの義弟の元へ送ることにした。全部で70キロ近くある。今振り返って見ると、こんなに大量の本を読んで勉強していたなんて自分自身でも信じられない。郵便局から書籍扱いで郵送すると5キロまでしか送れないので、小まめに分けて送ることにした。僕は旅行用のトランクにそれらの本をぎっしりと詰め込んで、バラナシのメヘムールカンジ地区にある郵便局にリクシャーで向かった。

郵便局で交渉の結果、局員が本を梱包してくれることになった。2人の局員が窓口の前に出てきて、白布に本を包んで太い針と糸で丁寧に縫い合わせる作業を始めた。梱包作業は極めてゆっくりと行われた。ちょうどその時のことである。局員達のこまごまとした作業を見ている僕の傍に、一人の見知らぬ男がゆっくりと近づいてきた。50歳くらいの大柄な男であった。親方風の出で立ちで、なおかつ首にガムチャというショールを巻いていた。彼は僕の直ぐ傍に立ってささやくように話しかけてきた。

「これ外国に送るのか?」

「いや、グルガオンだよ。ハリヤナ州の。」と、僕は訝しく思いながらも適当に答えた。

しかし彼はこう訊き返してきた

「郵送してちゃんと届くのか?」

「中身は本だからね。ちゃんと届くよ。」と、妙な事を訊いてくる人だなと思いながらも僕は返事した。

すると男は一層と声を低くして、これをゴラクプールの実家に送りたいのだが届くだろうかと僕の耳元でささやきながら、手の平にのった数枚のコインを僕に見せた。一枚取りあげて見てみると「EAST INDIA COMPANY ONE RUPEE」と刻まれた銀貨であった。銀貨はすべて19世紀前半に発行された東インド会社の1ルピー銀貨で新品の如くぴかぴかと輝いていた。以前も見たことがあったので、本物であることは一目で分かった。間近で僕の表情を伺っていた男の顔を驚いて見つめ返す。すると男は、

「この袋の中は全部これなんだよ。」

と言って、左手に持っていた緑の手提げ袋を少しだけ持ち上げて見せた。突然のことで動転しながらも、僕は男に忠告した。

「金目の物は郵送しないほうがいい。自分で持って行けばいいだろう。」

すると彼は困惑の表情を浮かべながら言った。

「いや自分で持って行きたくないんだ。なんとかして送れないだろうか?」

「送るのが難しいのならバラナシの銀バザールで売ってしまえばいいじゃないか。」と少し答えるのが面倒になってきた僕は苛立ちを隠せずに言い放った。

しかし男は、開いていた掌をぎゅっと握り締めてこう答えた。

「いや、これは工事現場に埋められていたものだ。売ろうとしたら捕まってしまう。」


無事に荷物を送って帰宅した後も、郵便局での出来事が僕の頭から離れなかった。世の中には「消化できない話」というものがある。人はいきなり意外な話を打ち明けられると、それを理解するまで時間がかかるものだ。まさにこの時の僕がそうだった。後で思ったのだが、あの男は銀貨の処分に困っていた時に、たまたま見かけた外国人の僕がそれらを購入しないかと思って話しかけてきたのであろう。僕が見た限り、銀貨は全て東インド会社発行のものであり、しかも細かい傷もほとんど見当たらなかった。市場や個人宅からの盗品ならば相当年数が経過しているので、銀貨の表面に無数の細かい傷があったり異なる年代の物も混じっているはずである。だが男の言った通りに地中に埋蔵されていた物であれば、当時のままの状態で掘り出されたとしても不思議ではない。
少し歴史的な話になるが、インドでは1857年にイギリスの東インド会社支配に対してインド人傭兵セポイによる反乱が勃発した。反乱は間もなく平定されたが、イギリス政府は反乱の責任を取らせるために東インド会社を解散してインドを直轄支配し始める。すなわち、東インド会社のコインはセポイの乱以降は発行されていないことになる。おそらく郵便局で見た銀貨は、その反乱の最中に反乱兵や賊からの掠奪を恐れて埋められたものか、もしくは盗賊などによって隠された掠奪品だったのではなかろうか?今まで土中に残っていたのは埋めた本人が不慮の死を遂げたからであろう。

思いもかけない出来事であったが、僕にはどうしても、あれらの銀貨が歴史の秘話を語りかけているように感じてならなかった。



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